BLUE NIGHT

「悪魔の殺し方を、教えてくれ」

泣きながらそう言った悪魔は、かつてのじぶんを思わせた。



BLUE NIGHT



「お」

任務の帰り。正十字騎士団日本支部である正十字学園内で、見知った男を見つけた。真っ黒な髪に、真っ黒なロングコート。鋭い瞳は爛々とした輝きを放つ紅だ。
まるで敵が眼前にいるかのような眼光に、彼の傍を通り過ぎようとする人は皆、そそくさと足早だ。
全くアイツは、と俺は苦笑しつつ、彼へと近づく。

「よぉ!久しぶりだな」
「……、師匠せんせい

俺がその肩を叩くと、驚いたような顔で俺を振り返る。だけど相手が俺だと分かると、少し肩の力を抜いた。相変わらず愛想のないヤツだが、長い付き合いになる俺には分かる。こいつは、どんな顔をして人間たにんと接すればいいのか、よく分からないだけなのだ。

「お前も任務帰りだろ?俺もなんだ」
「……そう、ですか」

お疲れさん、と言えば、こくり、と頷く。そして少し切なそうに目を伏せた。その横顔を見て、なるほど、と思う。
彼が、どんな思いで今まで戦ってきたのかを、知っている。そして、そのために色々と努力したことも。
その一途な思いが、今回彼がついた任務で、報われたことも。全部。

「……―――、守れたのか?」

俺は彼に問いかける。
彼は、その目を柔らかく緩ませて、一つ、頷く。

「師匠。あいつを、最中を救えたのは、あんたのおかげだ。……、ありがとう」

真っ直ぐに俺を見て、彼……―――夜は、小さく頭を下げる。

「礼を言うほどのことをした覚えはねーよ。努力したのも、強くなったもの、全部、お前の力だ。俺は何もしちゃいないさ」
「それでも。無力だった俺に力を、悪魔を殺す術を教えてくれたのは、あんただ」
「……まぁ、お前のこと、放っては置けなかったしな」

かつて、自分もそうだったから。
がむしゃらに、守りたいものを守りたくて、力を欲した。強くなりたい、ただ、それだけの想いで。
そして、夜を見ているとそんな自分を思い出して、どうしても、放っておけなかった。

『悪魔を殺す術を、教えてくれ』

昔、俺に向かってそう言い放った、ちいさなあくま。
大切なひとを守りたいのだと、固い決意を宿した瞳でこちらを睨む紅を見下ろして。
俺は、その悪魔に問いかける

『……同族殺しがどういう意味か。分かっているのか、お前』
『分かっている。それでも……――俺は、強くなりたい』

悪魔にとって同族殺しは、罪に問われることもないし、そう悪いことではない。ただ、一生、悪魔として生きることはできなくなる。
悪魔は、種だ。
それぞれの種が個であり、群れだ。その群れから外れた悪魔は、もう悪魔とは呼べない。
それが、同族を殺した悪魔の行く末。
俺が、そうだ。
悪魔の王、青焔魔の仔でありながら、自分の父親と敵対する祓魔師になった。その道を選んだ瞬間から、俺は悪魔ではなくなった。同時に、人間でもなくなってしまったけれど。
それでも、後悔はしていない。
その悪魔も、その覚悟はできている、と頷いた。


死ぬ覚悟は、できている、と。


『……―――。分かった』


その決意は本物だった。
だから、俺はコイツに祓魔の全てを叩き込んだ。
最初は夜の存在を危惧していた騎士団も、夜が使える駒だと認めたらしく、今では夜の上一級の祓魔師だ。

あのちいさな悪魔が立派になったなぁ、とその姿を見て思う。
俺は小さく笑いながら、でもな、と続ける。

「お前の実力だよ、全部。……、よかったな」

守りたいと思ったのも、その為に努力したのも全て夜だ。
俺はその手伝いをしたに過ぎないのだから。

「……ありがとう、ございます」

夜はほんの少し照れたようにそう言った。
こういうところは可愛いよな、と思いながら、ねぎらうように一つ、その肩を叩いた。






きっと夜は、名乗りはしなかっただろう。
自分が、かつて彼女と一緒に過ごしていたあの「夜」なのだと。
本人がそれでいいと思っているのなら、別にそれでも構わない。ほんの少し寂しそうな、それでいて幸せそうな弟子の横顔を眺めながら、俺はお疲れ様、と心の中だけで呟いた。






深山鶯事件を読んで突発的に書きなぐったSSS。
夜が「悪魔の〜」云々を言ったときに居合わせた祓魔師の青年が燐に似ていたので、もしあの時の祓魔師が燐で、だから夜が人間になったときの姿が燐に似ているんだ、とか何かそんな妄想をして止められなかったのでそんなネタを書いてみました。はい、すごく2番煎じです(笑

  • TOP