『死んでくれ』
その言葉に、嘘はなかった。棘のようなその言葉が、自分の兄に向かって放たれて、突き刺さるのが分かった。
だけど、それは心の底からの本音で。この言葉は言うべき言葉だった。
生きてはいけないと思われる存在。忌み嫌われる、青の人。
これから同じ血を分けた兄は、そういったことを思い知る羽目になる。
茨の道。地獄よりも地獄らしい道のりだ。
それでも、兄さんは真っ直ぐな眼をして歩いていくのだろう。一歩、一歩、その心も身体も傷だらけにして。
そんな兄さんの姿を、僕は目を逸らさずに見ていかなければならない。死んでしまった、神父さんの代わりに。
『強くなろう』
そう言った神父さんは、きっと分かっていたんだろう。兄さんが歩む道のりの険しさを。だから、その道のりにある小石を、少しでも取り除けるように、今の僕が在る。
同じ血を分け、同じように生まれてきたはずの、僕の兄弟。
だけど、存在そのものがあまりにも違いすぎて、もどかしく思うときがある。
……―――僕も「青い炎」を継いでいれば。
僕は、兄さんの痛みを引き受けられたのに、と。
だけど、きっと兄さんは、そんな僕を笑って。
お前が「炎」を継がなくて正解だよ、と言うだろう。それは先に生まれてきた俺の運命だ、と。
そんな兄さんが、僕はあまり好きじゃなかった。誰よりも優しい心を持っているのに、誰にも理解されない兄さんの、その在り方が。
だけど。それでも、兄さんは笑うだろう。
「俺は、弟とは戦わねぇ」
そう言い切った、あの時のように。
そんな兄さんを、僕は守りたい。
兄さん。僕は貴方を守るために強くなりました。
これからも、貴方を守るために強くなります。
だから、この言葉に嘘はない。
「死んでくれ」
柔らかな心に突きたてたその言葉が、いつか貴方の鎧になるまで。
END