メランコリック SAMPLE




「……懐かしいな」

俺は、その待ち合わせ場所に足を向けた。手に招待状を握り締めて。
二年しか経っていないはずなのに、こんなに懐かしい気がするのは、俺が意図的にこの場所を避けていたからだ。
この場所で、俺がいつもあの子を待たせていた。学校から少し離れたこの公園の入り口で、あの子はいつも少し俯き加減で俺を待っていたけれど、俺が来ると少しホッとしたように笑って、すぐにいつもの怒ったような表情を作った。
そんなあの子がすごく可愛くて、俺は少し遅れて行くようになった。



「遅い」
「ごめんごめん。ちょっと他の先生に捕まってさ」

ちょっとムッとしたような口調で言いながら、その口元は少しだけ緩んでいるのが分かって。それを指摘したらきっとムキになってしまうだろうから、俺はそれには触れずにあの子の手をそっと握り締めた。

「……ッ」
「ごめんね?」

真っ赤になって、俯くあの子の手は、剣道をしているせいか普通の人に比べると少し皮膚が硬い。だけど、そんなことは気にならない。ぎゅっと握り締めて、指を絡ませた。

「帰ろう?」
「……」

俯いたまま、こくりと頷くあの子。手を繋いだまま、ゆっくりと歩き出す。



俺はその道を、今、一人で歩く。
駅までの道のりの途中にある並木道を歩きながら、たくさんの人とすれ違う。季節は秋。枯葉が舞い落ちる中、俺は寒さに体を小さくした。コートのポケットに手を突っ込みながら、右手が妙に冷たいことに気づいて、苦笑する、
あの子と手を繋いで歩いたこの道を、今は一人で歩いている。
それを、今、実感するなんて。

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