年に一度の唯一

『大河「龍馬伝」を銀魂は全力で応援しています』


懐かしいヤツから年賀ハガキが来た。だが内容が意味不明なもので、相変わらず馬鹿やってんだな、と思った。
そしてその年賀ハガキは大量に送られて来ていて、普通の年賀ハガキに混じってしまっていて整理するのに困っている、とまた子がぼやいていた。
俺はぼんやりとその年賀ハガキを見下ろしながら、さてどうしたものか、と思う。例え敵対する仲であろうと、既知であることには変わりない。既知には年始には年賀ハガキを送るのが筋だ。それも、相手から先に送られてきたのなら、尚更。
しかし、この内容の返事って、何を書けばいいんだ?
首を傾げつつ、そういえば、と思い出す。この大河ドラマが始まってから、嫌に元気のいい奴がいたな、と。いや、アイツはいつでも無駄に元気がいいし頭が空だが、それが二割増しで煩かったような気がする。
俺は脳内にあの馬鹿の笑い声を思い出して、小さく苦笑を漏らす。そうだ、あの馬鹿にも年賀ハガキを送ってやろう。きっとアイツのことだ、無駄に喜んでくれるに違いない。
その様子を思い浮かべながら、俺は習字セットをどこにやったのかを思い返していた。



随分と久しぶりに筆を取った気がする。
俺は硯を刷って、程よく黒く染みる墨の出来具合に満足しつつ、ぼんやりとそう思う。昔は松陽先生に教えて貰って、よく字を書いていた。先生はとても達筆で、俺はその字を真似しようと必死だった。
無駄にそういうところは器用なヅラはすぐに上達したけれど、俺は随分と練習してやっとできるようになった。
銀時は習字自体に興味がないのか、終始落書きをしては先生から注意されていた。だけど銀時の書く絵は妙に上手くて、最後には先生も関心して褒めていた。
……本当、正月ってのはいけねぇ。妙に昔のことを思い出しやがる。
俺はまっしろな年賀ハガキを見下ろして、小さく口元を吊り上げる。さて、どんなことを書いてやろう、と少し緊張しつつ、俺はハガキに筆を走らせる。

『明けまして おめでとうございます』

ここまでは、いい。俺はそこまで書いて、一旦筆を置く。
何を書けばいいんだろう?今更、元気ですか?と尋ねるもの可笑しな話だし、かと言って、近状報告をするわけにもいかない。
うーん、と唸る。あの頭が空のもじゃ野郎のことだ、大河のことを振れば大概のことは食いつくだろう。そう思うのだけれど、もう一人のもじゃ野郎が先に大河について触れているのに、もう一度同じようなものを送っても面白くない。
なら、何を書けばいいんだ?
まだまだ白紙の部分が多いハガキを前にして、俺は途方に暮れる。すると偶然、万斎が通りかかった。何をしているでござるか?と尋ねてくる万斎に、しめた、と思う。こいつに年賀状に何を書けばいいのか聞いてみよう。

「よぉ、万斎。ちょいと、年賀状を書こうかと思ってな」
「ほぉ、晋助が年賀状を。……しかし、それにしてはまだ全然書いておらぬようだが」
「何を書けばいいのかさっぱり分からなくてな。……なぁ、万斎、何を書けばいいと思う?」
「……」

俺が尋ねながら万斎を見上げると、万斎は少し考える素振りをして。

「……無理に文を書こうとせず、絵を描けばいいのでは?」
「……なるほど」

いい案だ、と俺は手を打つ。さっそく筆を手にとって、今年の干支である兎を書くことにした。
だが。

「……。晋助、ソレはなんでござるか?」
「ん?兎だ」
「……」

出来上がったソレに大満足していると、何故か万斎に全力で止められた。なんでダメなのか分からなかったけれど、世界の為だの何だのと言って、そのハガキは万斎が処分してしまった。



絵がダメだとすると、どうすればいいのだろう。
俺は再び途方に暮れていると、今度はまた子が通りかかった。そうだ、(一応)女であるまた子なら、何かいい案を考えてくれるに違いない。
俺はまた子を引き止めて、ワケを話した。するとまた子は、少し考える素振りをした後。

「文も絵もダメなら、写真はどうスか?」
「写真?」
「そうッス。ほら、よくいるじゃないッスか。結婚報告とか写真でしてくる人。あんな感じで自分の写真を撮って、今こんな感じでやってます、的なことを書けばいいんじゃないッスか?」

なるほど、写真か。
思いつかなかったな、と思いつつ納得していると、また子は、何なら写真撮りましょうか?と言って来た。俺がそれに頷くと、どこから取り出したのか、さっそくカメラを構えて。

「ほら、晋助様!笑ってください!」
「え、あ、あぁ……」

また子が構えたカメラに向かって笑うと、また子はぐはぁ!と鼻血を噴き出して倒れた。どくどくと溢れる血に心配になっていると、グッジョブです晋助様、という言葉を残して、また子は気絶して。
あぁ、写真もダメだな、と俺は実感した。

絵もダメ、写真もダメ。
いよいよネタも尽きてしまい、俺は呆然とした。
ハガキには、「明けましておめでとうございます」の文字ただ一つしか書かれていなくて、質素すぎる。
これじゃ、アイツは喜んでくれないだろう。
俺は脳裏にもじゃもじゃとした頭と、あはは!と軽快に笑う声を思い出して、ぎゅっと筆を持つ手に力を込めた。
ちくしょう、馬鹿の癖に。頭が空なくせに。
俺は少し泣きたくなりながら、キッとハガキを睨みつける。こうなったら、最高の年賀状、書いてやろうじゃねぇか、と勢い込んでハガキに向かっていると、大量のハガキを抱えた武市が通りかかった。
やけに多いな、とそのハガキの量を見て思っていると、あるハガキに目がいって、俺は自然と、武市を呼び止めていた。

「なぁ、武市。それって……」





『あけまして おめでとうございます』


シンプルな年賀状が届いた。
市販でよく売っている、絵が既に書いてあり、文章も粗方書いてあるその年賀ハガキ。それを見つめた辰馬は、にっこりと微笑んだ。

「全く、相変わらずそうじゃなぁ」

のう晋助、とそのハガキの送り主であろうその人物の名を呼ぶ。その瞳はどことなく嬉しそうで、隣にいた陸奥は怪訝そうな顔をした。

「頭?なにニヤニヤしとるんじゃ」
「ん?いやぁ、年賀状ちゅーのはええもんじゃなーと思っての」

あははは!と軽快に笑う上司に、出来た部下は何も言わず、そうか、とだけ返した。

シンプルな年賀状。どこにでもあるその市販のハガキの端に綺麗な文字で書かれたその言葉は。


『今年も全てをブッ壊します』



今年の抱負を告げる、確かな想いだった。


おわり。


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