俺の弟を紹介します。

よぉ。俺は奥村燐。今は祓魔師を目指して日々勉強している、候補生エクスワイヤの一人だ。今日は俺の双子の弟、奥村雪男について話そうと思う。
え?なんでいきなり弟の話をするのかって?そりゃあ、俺の自慢の弟だから、誰かに自慢してぇんだよ!悪いか!
んで、その自慢の双子の弟の奥村雪男は、とにかく頭が良い。馬鹿な俺とは正反対で、なんたって名門正十字学園の入試をトップで入学した天才って言われてる。それに、祓魔師としても優秀で、「最年少で祓魔師の称号を手にした、悪魔薬学の天才」って呼ばれて、兄の俺としても鼻が高い奴だ。
でも、そんな雪男も最初からそうだったわけじゃなくて。
気が弱くていつも苛められてばかりだった雪男は、ジジイから言われて祓魔師になることを決意したらしい。そこらへんのことを詳しく聞いたわけじゃないから、雪男が何を想って祓魔師になったのかは分からない。俺は馬鹿だけど雪男は頭がいいから、きっと色々と難しいことを考えているのだと思う。
でも、どんなに強くなって、俺よりも背が高くなって、一人でも大丈夫になったとしても、俺は雪男を守りたい。それは俺が兄で、雪男が弟だから。兄貴が弟を守るのは、当然のことだろ?

でもまぁ、そんなことを雪男に言ったら、兄さんに守られるほど弱くないよ、って雪男は怒るかもしれないな。アイツ、最近やけに俺に突っかかってくるし。
昔は素直に「兄さん大好き」とか言ってくれたんだけどなぁ。最近は全然そんなこと言わねぇし、口を開けば「課題は済んだの?」「もう少ししっかりしてよ」だもんな。
俺だってこれでも一生懸命やってるんだっての!でも、人には向き不向きってもんがあるんだよ!そう思わないか?
……、でも、雪男が心配してくれんのは、分かってるんだ。俺はサタンの息子だし、いつ命を狙われてもおかしくないし。でも、それにビビッてたら祓魔師になんてなれないだろ?俺は早く強くなって、一人前の祓魔師になりてぇんだ。

でも、最近のアイツはどっか様子がおかしいんだぜ?時々視線を感じてそっちを見たら雪男がいるから、何だろ?って思ったら急に視線を逸らせるし。
この前だって、研究のために尻尾触らせてっていうから触らせてやったら、妙な顔をしたし。尻尾は他の誰にも触らせちゃダメだからね、って何か焦ったようにそう言うから、俺は首を傾げながらも頷いたんだっけ。そん時の雪男の顔が、その、変に男っぽい、っていうか。や、雪男は男なんだけど、……あー!もう、何て言っていいのか分かんねーけど、妙にエロかった?みたいな?うん、そんな感じだったな。
だいたい、アイツはほんとに俺と同じ年かって思うときがある。そりゃあ俺と雪男は双子だから俺と同じ年なのは当然なんだけど、でも、雪男は時々男の俺でもドキッとする顔をするから、兄の俺でさえドギマギしてしまう。
だから、コイツは女にモテるんだろうなーって、ちょっと寂しいような、兄としてちょっとムカつくような、そんな心境になるんだ。

本当なら、雪男は普通に医者になって、アイツの隣に並んでも全然可笑しくないすっげーキレイな女と結婚して、子供ができてっていう、ごくごく普通の幸せな生活が送れたはずなんだ。
だけどアイツが選んだのは、悪魔と戦う道で。俺はそんな雪男に、ほんの少しだけ罪悪感を抱いている。けど、そんな思いを抱えること事態、きっと雪男は望んでいないんだろうなって思う。
え?なんで分かるのかって?だって、俺と雪男は双子だぜ?だいたいお互いに考えていることなんて分かるって。それに、俺がもし反対の立場だったら、そんな風に思って欲しくないって思うし。

多分、ジジイが雪男に祓魔師になる術を教えたのは、俺を守るためなんかじゃなくて、雪男自身を強くする為なんじゃないのかな、と思うんだ。
雪男が強くなれば、もう雪男は泣かなくて済む。俺を守るなんてことは、きっとその過程に過ぎないんだろうな。
ジジイは、俺たち二人の父親で。片方だけが片方の重荷になるような、そんな道を示すはずがないから。
だから、別に雪男は俺を守ろうと肩肘張らなくてもいいんだけどな。それに俺、そんなに弱いわけじゃないし。どちらかと言えば、普通に一対一で勝負したら、雪男に勝つ自信があるもんな。

でも、俺を守ろうとしてくれるのは、すごく嬉しいんだ。フキンシンだけど。
そんな風に、俺のことを想ってくれる雪男の存在が、俺の支えになってくれているのは、間違いないから。
ん?雪男のこと?そりゃあ、大事な弟だと思ってるし、好きだけど?いちいち口煩いし、時々別人みたいに怖い目をすることもあるけど、でも、俺の大事な大事な弟だ。
俺がいつか聖騎士パラディンになって、もう俺のことを守らなくても良くなったら、アイツには普通の医者として生きていて欲しい。それまでは、アイツは俺のもんでいて欲しい。我侭だって、分かってるけどよ。

あー、なんか、ガラにもなく難しいこと言っちまったなぁ。雪男のが移っちまったのかな?
あはは、笑えねぇな、それ!でも、やっぱり俺たち双子だし。
ツライこととか、悲しいことがあると、すぐに分かっちまうからさ。イシンデンシンってやつ?
だから雪男に言い寄ってくる女の子とかに、自慢したいくらいなんだよ。雪男は今、こんなこと考えてんだぜってさ。これってさ、ヤキモチってやつなのかな。今までずっと一緒にいた雪男を、そんじょそこらの女の子に取られたくないんだろうな、俺。
でも、しえみとかまろまゆとか、塾の女の子たちには負ける気がするんだ。だって、皆イイヤツだし、もし雪男があいつ等を彼女として連れてきたら、俺は諸手を上げて歓迎するつもりだ。
ん?でもそうなったらしえみとかまろまゆに「義兄さん」とか呼ばれるのか?俺?
うっわー何か想像できねぇな!
しえみはともかくまろまゆに「義兄さん」とか呼ばれたら、俺は多分しばらくは笑うな。

っと、こんな馬鹿話してる場合じゃなかった。今日は雪男が早く帰ってくるって約束してくれたから、アイツの好きなもん作ってやるつもりだったんだ。
あぁ、もう帰るよ。
んじゃ、またな。







END

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