タンク様より、奥村兄弟逆転パロ小説の続きを頂きました!ありがとうございます!
というわけで、↓からどうぞ。
「わいが聖書・教典暗誦術及び銃火器実技を担当する中一級祓魔師の勝呂竜士や。暗誦言うと暗記みたいでいややいう奴も多いと思うが、詠唱騎士になるには、少なくとも必要となる教典はどんな時でもそらで言える位馴染んどらんと使い物にならへん。そんための手助けをするのがわいや思って欲しい」
そういって訓練生をぐるりと見回した教師の姿に、僕は目を丸くした。年は僕たちとそう変わらない様子だが、その格好がぶっ飛んでいたのだ。
その髪は真ん中が金に染められたメッシュで、しかも鶏冠のようにそそり立っている。両耳には幾つもピアスが付けられ、一体どこの不良かと言わんばかりの出で立ちだ。関西弁と合わせて、どうにもいかがわしさが拭いきれない。
今日の講義は聖書・教典暗誦術。悪魔のウィークポイントである致死節について理解し、それを自在に使いこなせるようになることが目的だ。もともと暗記は苦手じゃないし、コウのお陰で既に一部の教典は暗誦できるようになっている。修道院で育ったから聖典にも馴染んでいるし、そういう意味ではとっつきやすい授業だ。
しかし、教師がこんな人で、果たして他の訓練生は大丈夫なのだろうか。
だが、授業が始まってすぐに、この人のすごさは見かけとは関係ないことに気付いた。教典一つ一つの特性、暗誦のためのポイント、実にわかりやすく説明してくれる。それに聞きほれているうちにあっという間に時間が過ぎていった。
「坊!」
「坊、久しぶりです!」
授業時間が終わったと思ったら、途端に教室はにぎやかになった。志摩君だけではなく、いつもは大人しい三輪君まで歓声を上げながら教壇に駆け寄っていく。
「おう、志摩に子猫丸!久しぶりや!元気しとったか!」
勝呂先生もさっきまでのまじめな顔が嘘のように、年相応の笑い顔で応じる。同じ関西弁だし、どうやらこの三人は旧知の間柄らしい。
「坊も一度くらい京都に帰りはったらいいのに、祓魔師になったて聞かされたきり丸っきり姿見せへんから、一体どうしはったのか思ってましたわ。柔兄いたちも心配してはりましたよ」
「済まんな。でも二度と虎屋の敷居は跨がんいう覚悟でこっち来たからな、今さら帰りづらくてな……皆元気か」
「和尚さまも、皆も変わりありません。……ただ、最近志摩と宝生の仲がえろう悪くなって、志摩さんのお父はんも苦労してはるようです」
「そうか……あのはげ達磨が、もっとしゃんとせいや」
「いけませんよ、坊。実のお父はんのことを」
語り合う三人を見ながら、僕は教室を出ようとした。
「あ、ちょい待ち…奥村」
だがその途端、いきなり勝呂先生に呼び止められた僕は、少し眉を顰めながら立ち止まった。確かこの人も兄さんの同期だったそうが、神木先生と同じように何か僕を通じて兄さんに言いたいことがあるのだろうか。
「少し話があるんやが――済まんな、お前んら、積もる話はまた後でな」
残念そうな志摩君と三輪君にそう告げると、勝呂先生は僕のほうに寄って来て耳元で囁いた。
「お前んの兄貴のことで、話しときたいことがある」
「済まんな、時間とらせて」
勝呂先生に先導されるまま、何かの施設のようなところに案内されてきた僕に、先生はそういって軽く頭を下げた。どうやらその見かけとは裏腹に、かなり義理堅い人らしい。
「いえ……それより、話とは、一体……」
「まあ待てや。まず聞きたいんは、お前んが奥村…いや、お前んの兄貴のことをどのくらい知っとるかや。それによって、こっちの言いたいことも変わってくるんやが……お前ん、あいつのことどの程度知っとる?……青焔魔のことは……?」
「……僕が知っているのは、兄が青焔魔の焔を継いでいること、それゆえに祓魔師として正十字騎士團のために働いていること、…そして、僕たちの育ての親、藤本獅郎が聖騎士として兄を見守っていたことくらいですが」
堅い表情で応じる僕をじっと見ていた勝呂先生は、僕の答えにふう、と息をついた。
「そこまで知っとるんなら話が早い。……わいは、生前の藤本先生から、一つ頼まれていたことがあるんや。もしも自分の身に何かあって、そしてあいつの双子の弟――つまりお前んのことやな――が祓魔塾の門を叩くことがあったら、そいつのことを見守り、導いてやって欲しいて。まさかそないなことある筈ない思うて、軽く引き受けてしもうたんやが、先生があないなことになってしもうて、お前んがここに来たからには、先生のお言いつけは守らなあかん思うてな」
「養父のことを……ご存知だったのですか?」
「先生は前任の対悪魔薬学の教師やったし、任務でも何度か、な。……大抵塾の同期生同士は任務で組まされることが多いし、先生と奥…お前んの兄貴も一緒に行動することが多かったもんやから、他の者よりは、先生のことを身近で見さしてもろうとったわ。詠唱についても色々教えてもろうたし」
声を詰まらせた僕に、勝呂先生は落ち着いた声で答えてくれた。もしかしたら、神父さんは今の事態さえ、予想のうちに入っていたのだろうか。
「ほんで、お前んの兄貴のことや。……実は、お前んがさっき言うたことは、全て、騎士團の最高機密になっとる」
「…最高、機密……?」
いきなり重大な秘密を打ち明けてくれた勝呂先生は、そのままの口調で続けた。
「……ちゅうことを、ほとんどの祓魔師と塾生が噂ゆう形で聞いとる」
「!?な、なにかの冗談ですか?」
全く関西人は、と睨みつけると、勝呂先生はふう、と溜息を一つついて額に手を当てた。
「いや、冗談ならよっぽど良かったんやがな。…考えてみい、お前んの兄貴が、隠し事の出来る性分やったかどうか」
「…絶対、不可能ですね」
今はともかく、子供の頃の兄さんに隠し事をさせるくらいなら、鶏に空を飛ばせるほうがまだ見込みがあるに違いない。……そう考えると、祓魔師になったことを隠していたのは、神父さんの助けもあったとはいえ相当固い決意を固めていたのだろう。
「…まあ最近は少しましになりよったが、昔のあいつはほんまに見てるほうが寿命縮むくらい無鉄砲でな、おまけに考えなしやさかい、何かっちゅうとすぐあの青い焔を使うとった。候補生になってすぐのころ、合宿しとったわいらを八候王の一人が襲撃するいう事件があってな、そのとき、あいつまだちっちゃな餓鬼のくせしよって、自分の背丈ほどもある倶利伽羅を振り回してそいつとがちで戦いよったんや。
そのお陰でわいらは助かったんやが、その後が大事や。それまで、あいつのことは理事長と藤本先生だけの秘密やったらしくて、ヴァチカン本部の偉いさんが仰山、血相変えて押しかけて来よってな、あいつと先生、それに理事長を被告にした懲戒審問であいつをどうするか審議しよったんや」
「…そ、それでどうなったんですか?」
「どうなったて、今もお前んの兄貴はぴんぴんしとるやないか。結局藤本先生の身を挺した説得もあって、十二歳の誕生日までに祓魔師の資格を取るゆうことを条件にその場は何とか収まったんや。それまでの最年少記録よりも三年も早いちゅう難条件やったのに、あいつ、それをさらに二年も短縮して、わいが詠唱騎士になったのと同じ年に騎士になりよった。全く腹の立つ奴や」
勝呂先生の私情混じりの説明が終わっても、僕は声をあげることすらできなかった。兄さんが、そんな危ない橋を渡っていたことに、自分は全く気付けなかったなんて――
「ほんで最初の話に戻るとな、結局、お前んの兄貴が青焔魔の焔を継いどるゆう事実は関係者以外伏せられたんやがな、人の口に戸は立てられんものや。どこからともなくそのことを知って、それを面白うない思うとる連中が、この正十字騎士團にも仰山居る。それに青焔魔はあいつを生み出すために『青い夜』を起こした。それを憎んどる連中もこれまた仰山居るんや。だから、お前んもいつ狙われんとも限らん、十分注意しろて言うとかんといかん思うてな」
「青い……夜?」
いままで聞いたことのない言葉に思わず問い返すと、勝呂先生は再びふうと息をついた。
「…そうか、それは聞かされとらんかったか。…『青い夜』いうんは、十六年前、青焔魔がこの物質界に干渉し、世界中の聖職者をその青い焔で虐殺した事件のことや。わいの居った寺でも仰山人が死んでな、わいの祖父さんや志摩の一番上の兄さん、それに子猫丸の両親もその犠牲者や。…今なら分かることやが、それはお前んの兄貴を虚無界に引き込むために青焔魔が仕出かしたことやったんや」
「……じゃ、じゃあその犠牲者の遺族は、兄さんを……」
「そう思ってつけ狙っとる連中も居るゆうことや」
「……先生は、どう思っていらっしゃるんですか。先生の周囲でも、多くの方が亡くなったのでしょう?」
「…正直、あいつを憎んだこともある。けどな、机を並べて共に学んどれば、あいつがどれだけ真剣なのかはよう判る。それにあいつは、わいの青焔魔を倒すいう夢のような望みを笑いもせずに聞いてくれて、そん上で青焔魔を殴るんは俺やて大見得切ったんや。…今ではあいつはわいの大切な友達や思うとる」
そう言い切ってくれるような人だからこそ、神父さんは、自分に万一のことがあった時にも頼れる人だと見込んだのだろう。
兄さんの傍にも、これだけ頼りになる人がいたのだと思うと安心するが、その一方で何だか同時にもやもやした気分になる。一体、兄さんは勝呂先生のことをどう考えているのだろう。