タンク様より、奥村兄弟逆転パロ小説を頂きました!ありがとうございます!

というわけで、↓からどうぞ。


 僕には双子の兄さんがいる。
 当たり前だが、生まれる前から一緒だ。
 これからも、ずっと一緒にいると僕は信じていた――


「あれ、また兄さん居ないの?このところずっとだね」
「あ、ああ…いつも言い聞かせちゃいるんだが、全くしょうがねえな、あの馬鹿息子も。けど朝飯の支度だけはしっかりしていってくれるのが可愛いじゃねえか」

 神父(とう)さんの言葉に僕も苦笑交じりに頷く。くそジジイとか何とか言いながら、兄さんが神父さんを慕っているのは傍から見ていても明らかだ。

 僕は奥村雪男。この南十字男子修道院の院長である藤本獅郎の養子として、双子の兄である奥村燐と一緒に生活している。この春から正十字学園特進科に特待生として入学する予定だ。

「だけど、そろそろ兄さんの身の振り方もどうするか、考えないといけないんじゃないの?中学を卒業してからだって、ろくに就職活動もしていないじゃない」
「ああ〜〜まあそっちのほうは俺の伝手も当たってるから、どうにかなりそうだ。あいつも悪い奴じゃないからな、周囲の環境さえ良ければ、それなりにやってけるだろ」

 僕が兄さんの心配をするといつもこうだ。中学さえろくに出席せず、当然何の資格も持っていない兄さんの未来はこのままだと無職のフリーターコースまっしぐらの筈なのに、兄さんも父さんも、まるで問題ないという顔をしている。一体どうすればそんなに安穏としていられるのか、兄さんだけなら首に縄をつけてでも職探しをさせるところだけれども、神父さんまでまるで危機感がないものだから調子が狂ってしまう。

「そんなことより、今日は学園のほうで入学式の打ち合わせがあるんだろ。早く行って来いよ。多分夜には燐も帰ってるだろ」
「……うん、わかった」

 はぐらかされた事は分かっているが、ここでそれを追求してもさらに煙に巻かれることはそれ以上に分かりきっている。夜兄さんが戻ってきたところでもう一度話をすれば良いだろう。そう思って僕は修道院を後にした。

 それが、当たり前の日常との別れだとも知らずに。

入学試験で首席だった僕は入学式で入学生代表として答辞を読み上げることになっている。そのため入学式前からこうして正十字学園にやってきては打ち合わせを繰り返す毎日だ。今日もその一環で、実際に入学式が行われる講堂で答辞を読み上げるリハーサルを行っていた。

「はい、OKです。奥村君お疲れ様でした」
「あ、はい、ありがとうございました」

リハーサルが終わってから、僕はふと思い立って南十字商店街に寄ろうと思い立った。修道院で暮らしている間に、あちこちの店で何かとお世話になっていたので、引っ越す前に挨拶しておこうと思っていたのだ。

「へへへ、見つけたぜ。お前、あいつの弟なんだって?」
「……どなたですか?」

だが、行きつけの商店を回っているうちに商店画の外れまで来ていた僕を、いきなり柄の悪そうな少年達が取り囲んできた。どうやらこのあたりを縄張りにしている不良らしい。

「手前の兄貴に世話になったんでなあ、ぜひとも御礼してやろうと思ってな、この際だから弟でも良いぜ」
「……そうですか」

 僕はため息をつきつつ答えた。実はこうした出来事は初めてではない。兄さんは決して自分から他人に乱暴するような人ではないが、理不尽な行いを黙って見逃すような人でもない。結果として不良たちを殴り飛ばしては自分自身も傷ついて、神父さんに怒られていた。きっとこいつらも、そんな兄さんに痛い目に合わされた口なのだろう。

「何の用か知りませんけど、つまらない逆恨みに付き合うつもりはありませんよ。兄さんに用があるというのなら、今日も外出しているようですし、勝手に探しに行けば良いじゃありませんか」
「へへ……そんなこと…どう、だって……ヨウガアルノハオマエダ、ワカギミノオトウト」

話しているうちにどんどんろれつが回らなくなってきたかと思ったら、話す内容までおかしくなってきた。クスリでもやってるのかな、と思ったところで僕はぎょっとした。

顔が……変形している?

不良たちの真ん中に居た男、その口が確かに大きく裂けると、鋭い牙が突き出す。その指からは鋭い爪がうねうねと伸び、果てはこめかみから捩くれた角が突き出したではないか。

僕までいつの間にか頭がおかしくなったのかと思ったが、だが周囲の不良たちもぎょっとした顔をしている。どうやら、僕が見ているのは幻でも、ましてや妄想でもないらしい。

「し……白鳥さん?そ…の角は…一体…?」

恐る恐る問いかける男たちをわずらわしげに見やると、白鳥と呼ばれた男は無造作に片手を振った。

「「ぎゃあっ」」

たったそれだけで、男たちは何メートルも弾き飛ばされると悲鳴を上げて逃げていった。

『マジンサマノメイニヨリ、オマエニハゲヘナニキテモラウ。オレトトモニコイ』
「なっ、何を言ってるんだ。魔神だの、ゲヘナだの……い、一体、何の冗談…」

声を上ずらせながら下がろうとする僕の肩に、無造作に近づいて来た男が手をかける。

その瞬間、ばちっと大きな音を立てて閃光が走った。神父さんからいつも見につけているように言われていたロザリオ、それがいきなり光を発し、その光が男を物理的に跳ね除けたのだ。

「うわぁっ」
『ギイイイッ』

その反動で白鳥と距離を置くことのできた僕は、慌ててその場を逃げ出した。人があんなに姿を変えるなどありえないことだと理性は訴えるのだが、しかし心のどこかであれは危険だと訴える声がしている。その心にせきたてられるように、僕はなぜか修道院を目指して走り出していた。

だが

『ナニカ、ゴフデモモッテイルヨウダガ……ニガサン』
「うわあっ」

まるで空でも飛んできたかのように頭上から飛び降りてきた異形の男は、今度は僕に直接触れないようにと考えたのだろう、手にした棒で僕に殴りかかってきた。

ぶんと音を立てて振り回されるその太い棒を、僕はぎりぎりのところで必死にかわす。体は鍛えているつもりだったが、それでも白鳥が振り回す棒の動きについていくのがやっとだ。

「くうっ……な、なんで……」

いったい何が起こっているのか、なぜ自分がこんな目にあっているのかさっぱり分からない。そもそもこの白鳥という男は一体何者なのか、そもそも人間なのか。これは現実のことなのか――

「うわあっっ」

遂に服の端が棒に引っ掛けられた。それだけで僕の身体はまるで子供のように軽々と吹き飛ばされてしまう。技量がどうとかではなく、その腕力が桁違いなのだ。そう、まるで怒ったときの兄さんのように――

『テコズラセタナ。ダガ、ソレモココマデダ。オトナシク――』
「――大人しくするのはお前だ。悪魔が」

ばん

どこか現実味に欠ける音がしたかと思うと、男の足から血しぶきが立った。

『ギイイイッ…オノレ、エクソシストガァッ』
「……この者の首に石臼をかけ……永遠の闇へと閉ざせ!」

 男が倒れたその後ろに立っていたのは神父さんだった。だが、今まで僕が見たこともないような真剣な表情を浮かべた神父さんは、僕に目もくれずに聖印を男に突きつけながら、今まで教会では聴いたことのない教典のようなものを唱えた。

『ヤ、ヤメロォォォォォッ、ガアァァァァァ』

すると、もがく男の体からまるで黒い煙のようなものが吹き出たかと思うと、見る見るうちにその体から角や牙が消えうせ、激しく痙攣したかとおもうとばったりと地に臥してしまった。奇妙なことに、打ち抜かれたはずの足にも傷一つない。

「と、神父さん……」
「経堂、こいつにテトラモルフの印を刻め。浄化処置を忘れるな。他の者は警戒を怠るな。他にも悪魔が居る可能性がある」
「「はい」」
「……大丈夫か、雪男」

神父さんの後ろで控えていた修道士たちが機敏な動きで男の身体に何かすると同時に周囲に厳しい目を向けるのを確認しながら、神父さんはようやく僕の前にしゃがみこんできた。けれどもその目は油断なく周囲を見回している。その視線につられて辺りを見回した僕は、思わず目を見張った。

「な、何……あれは…」
「!…雪男、お前、何か見えるのか?」
「う、うん、神父さん……空中に、何か黒いものが一杯……何だろう、僕、頭でも打ったのかな?」

僕のおぼつかなげな口調に、何やら慌てた様子で問いかけてきた神父さんは、僕の返事に深いため息をついた。

「そうか……話は後だ、雪男。そっちはどうだ、経堂」
「大丈夫です。処置も完了しました。命に別状ありません」
「よし。撤収する。そいつは放って置け。……立てるか、雪男」

神父さんの手に支えられながら立ち上がった僕だが、足元がふらついている自覚はあった。そう、体の変調ではなく、心の動揺のために。

もう、昨日までの日常が還ってくることはないのだと、僕は心のどこかで理解していた。