タンク様より、奥村兄弟逆転パロ小説の続きを頂きました!ありがとうございます!
というわけで、↓からどうぞ。
「おやおや、すっかり仲直りしたご様子ですね、おめでとうございます」
「あ〜〜!よくもぬけぬけと現れやがったな、この野郎!」
がっちりと手を握り合う僕たち兄弟の脇に、唐突にフェレス卿――今度はあのけばけばしいスーツ姿だった――が現れたとたん、兄さんは顔中を口にして怒鳴りつけた。
「なんで雪男が祓魔師になりたいって言うのを黙ってたんだよ!あんなニセの出席簿まで作って!」
「贋物だなんて人聞きの悪い。そもそも弟さんの希望をお聞きしたのは昨日のことだったんですから、その後作り直した出席簿を貴方に渡したのが、ついさっきだったというだけのことですよ」
「だ・か・ら、その希望を俺に黙ってた理由を聞いてんだよ!今思えば昨日から勝呂たちの態度もおかしかったし、俺にだけ内緒にしてたんだろ!」
「それは勿論、弟さんに頼まれたからに決まってるじゃありませんか。そもそも貴方の希望通り、貴方が既に祓魔師になっていることも弟さんには黙っておいてあげたんですから、文句を言われる筋合いはありませんよ、奥村先生」
「何を恩着せがましく言ってやがる。どうせ、黙っておいて教室で対面させてやれば面白いだろうとか考えたんだろうが、この悪魔!」
「それは当然……貴方も私の思考を理解してきたじゃありませんか」
「昨日今日の付き合いじゃないからな。……それにしても今回のは強烈だったぜ、畜生」
ひとしきり怒鳴ったかと思うと頭をかきむしる兄さんを見て満足そうに笑ったフェレス卿は、不意に唖然としていた僕のほうを振り返った。
「というわけで、お二人にお互いのことを黙っておいたことは謝罪しましょう。…それでは、改めて奥村雪男君に紹介します。こちらは奥村燐先生、僅か十歳にして騎士の称号を取得した、悪魔学および剣技の天才です。そして、今年からその二つの教科を受け持つ新任教師でもあります」
フェレス卿の言葉に、僕ははっと兄さんを見つめた。そういえば、小学校に入る頃から妙に兄さんが修道院からいなくなることが多くなっていた。神父さんは、兄さんは自分の力を抑える修行をしているんだ、なんてふざけた説明をしていたけれども、もしかしたら……
「それじゃ、小学校の頃から……?」
「…ああ、いや……覚えているか、雪男…俺たちが幼稚園にいた頃、ジジイが肋骨折って入院したことがあったのを」
そういえばそんなことがあった。……見舞いに行ったら神父さんがあんまり看護婦さんといちゃいちゃいたから呆れて帰ってしまったけれども。
「実は、あの時、俺は自分の焔に目覚めてさ……それを、ジジイが自分の身体を張って抑えてくれたんだ。それで、あれからすぐに、俺は自分の焔を制御する訓練と、祓魔術の訓練をはじめたんだ」
「……そうだったんだ」
「そして、今ではわが日本支部の誇る上一級祓魔師というわけです。ところで、そろそろ教室に戻ったほうが良くはありませんか?これ以上遅くなると、魔障の儀が出来なくなるかもしれませんよ」
「げっ、そうだった。じゃあ、雪男、詳しい話はまた後でな」
慌てた様子で教室に戻る兄さんに続いて、僕も自分の座席についた。フェレス卿も犬の姿に戻って、ちゃっかり僕の膝の上に戻る。あのスーツ姿が自分の上に乗っているかと思うと妙に腹が立つが、ここで怒鳴っていたら周りから変人扱いされてしまうだろう。
そうこうするうちに教壇に立った兄さんが改めて口を開く。
「すまなかったな、皆。この際だからまず言ってしまうけど、俺とそこにいる奥村雪男とは双子の兄弟でな、弟がこの塾に入ることを俺に言っていなかったから、つい慌てちまって……改めて自己紹介させてもらうと、俺は奥村燐。皆と同じ十五歳だけれど、これでも一応上一級祓魔師だ。今年から悪魔学および剣技実技を受け持たせてもらうんで、これからしっかり鍛えさせてもらうから、よろしくな」
訓練生たちを前にしても、兄さんは全く緊張した様子もなく堂々と挨拶している。
「それじゃあ、今日は魔障の儀について説明する。皆、ここに来るからには悪魔については理解していると思う。この世界、物質界とは異なる虚無界という世界から、人を含めた物質界の物質に憑依する形でやってくる連中だ。魔障とは、この悪魔たちから何らかの形で受ける影響を総称したもので、基本的に魔障を受けないと悪魔の姿を見ることは出来ない。だから、祓魔師になるには魔障を受けていることが大前提になる。それでは、この中で魔障を受けていない者は?」
その声に合わせて、数人の手が上がる。僕は、というと一瞬迷ったが、青焔魔と遭遇して、しかも虚無界の門とやらに放り込まれているのだから、これも魔障なのだろうと思ってやめておいた。……大体、そうでなければこの教室を飛び交う悪魔らしい連中の姿が見えていることの説明がつかない。
「それじゃあ……」
「っ兄さん!」
兄さんの声を遮るように、僕は思わず叫び声を上げた。兄さんの後ろの黒板から、太った鼠のような悪魔が飛び出してきたのだ。
――しゃん
「静まれ」
声もなく自分を見つめる訓練生を気にする様子もなく、兄さんはいつの間にか右手に持った抜き身の剣を悪魔に突きつけている。鼻先に剣を突きつけられている悪魔はもとより、それに続いて飛び出そうとしていたらしい悪魔たちも、兄さんの気迫に気圧されたのか身動き一つしない。
その剣の刀身は青い焔を纏っていた。照り返しなどではない、刀身自体が発する美しい煌き――僕はようやく、あの時僕と神父さんを救った青い輝きの正体を知った。
「――お前たち、俺に襲い掛かるなんて、死にたいのか」
すると、悪魔たちがいやいやとでも言うように首――だか胴体だか分からないが、とにかくその丸い体――を振った。それを見て兄さんも落ち着いた様子で刀を背中の袋に入っていた鞘に収める。
「それじゃ、さっさと協力してもらおうか。――じゃあ、さっき魔障を受けていないって言ってた五人、教壇の前に来てくれ」
そう言われて、先ほど手を上げていた生徒たちがおずおずと前に進み出た。すると兄さんは、彼らに教卓の上に手を出すよう言うと、続いて悪魔たちに一体ずつその手の前に来るよう指示する。
「それじゃ、いいか、軽く引っ掻くだけだからな。…やれ」
「えっ……ああっ!」
「…これが、悪魔…」
「なんや、えらい可愛い格好してますなあ」
魔障を受けて、ようやく悪魔が見えるようになった訓練生たちが驚く様子に、兄さんは上機嫌で口を開いた。
「こいつらは鬼(ゴブリン)と呼ばれる悪魔だ。普段は人の立ち入らない暗がりに潜んで集団で行動をするんだが、どうも今日は何かに興奮してたみたいだな。それで、最初いきなり剣を抜く羽目になっちまったんだ」
ちらちらと僕のほうを見ながら、兄さんが訓練生たちに目の前の悪魔のことを説明している。膝の上でピンクの犬が(犬のくせに)肩をすくめているところを見ると、どうやらフェレス卿のいたずららしい。
「全く、お前たちが妙なことするからだぞ」
兄さんが鬼の頭(?)を軽くつつくと、鬼たちがまるで謝るかのように頭に手を当てる。その妙に可愛いしぐさに、思わず僕も笑ってしまう。
その時
「なぜそんなに悪魔に馴れ馴れしいんですか、先生は」
魔障の儀を受けずに後ろの席に座ったままの訓練生が、いきなり厳しい口調で兄さんに問いかけてきた。
「…気になるか?ええと、イゴール・ネイガウス君?」
「祓魔師は、全ての悪魔をこの物質界から駆逐するのが使命なのではありませんか!ならば、悪魔と親しくするなど、祓魔師として正しい行いとは思えません!」
ネイガウスと呼ばれた少年の厳しい声に、他の訓練生が息を飲む。兄さんも表情を消してじっと聞き入っていたが、やがて落ち着いた声で応じた。
「……そういう考え方もあるな。確かに、騎士團上層部にはそう言ってる連中も多い」
「でしたら!」
「けど、俺は違うと思ってる」
ネイガウスを正面から見つめながら、兄さんは静かに言葉を重ねる。
「確かに、一部の悪魔は物質界で人間に害を齎しているさ。だから、そういった連中を追い払うのは当然のことだ。けどな、実際にはそれをはるかに上回る数の悪魔が、それこそはるか昔から物質界で人間と共存してるんだ。この鬼や、世界各地で土地神と呼ばれている連中は皆そうだ。そういう悪魔も含めて、物質界と虚無界、二つの世界の調和を保ち、その中で悪魔の脅威から人を守るのが祓魔師だと俺は思っている。……すまねえな、師匠の受け売りなんで、ちょっと判りづらいかも知れないけどな」
兄さんの師匠――それはきっと神父さんなのだろう。青焔魔の子である兄さんや、その双子の弟である僕でさえ、神父さんはわが子として慈しんでくれた。そんな神父さんなら、他の悪魔についても、悪魔というだけで無条件に排除することはなかったことだろう。
「まあ今すぐ納得しろとは言わないさ。実際俺たち祓魔師がしていることは、お前の言うとおり悪魔を物質界から排除する活動ばかりだ。もしかしたら、やっぱり最終的には悪魔を完全にこの物質界から追放することこそが正しいのかも知れねえ。
けど、少なくとも悪魔の中に、自分たちがこの物質界の間借り人であることを自覚して慎ましく暮らしてる連中がいるんだ、ということは理解して欲しいんだ。実際手騎士の中には、自分の使い魔をペット同然に可愛がってる人もいるから、悪魔だから排除しろとは簡単には言えないと思うぞ」
兄さんの言葉に、ネイガウスはやや不満そうではあったものの、それでも一応は静かになった。
「…他に何か質問や意見のある奴はいるか?……それじゃあ、今日の授業はこのくらいにしようか」
兄さんの言葉と共に、僕の、訓練生としての最初の授業は終わりを告げた。