タンク様より、奥村兄弟逆転パロ小説の続きを頂きました!ありがとうございます!
というわけで、↓からどうぞ。
「あんた、奥村センセの弟やて?」
「ええ……そうですけど、それが何か?」
授業が終わったと思ったら、とたんに僕は周囲を同じ訓練生らしい生徒に取り囲まれてしまった。いささか困惑しながら、話しかけてくるピンク色の髪をした少年に視線を向ける。
「いや、奥村センセいうたら、過去の最年少記録を次々ぶっちぎりで更新して、今や上一級祓魔師にまでなりはった天才やろ。おまけにそのお養父はんときたら、最強の聖騎士て謳われた藤本獅郎や。その弟サン言うたら、どんなすごい人なんやろうな思うてな…ああごめんな、自己紹介がまだやったわ。ワイは志摩廉造いいます」
「ボクは三輪子猫丸。志摩さんと同じ、京都から祓魔塾に入るために正十字学園に入学しました。これからよろしく、奥村さん」
「こちらこそよろしく……僕は奥村雪男」
一応応対はしたものの、僕はなんとなく不機嫌だった。彼らは、僕の知らない兄さんを知っている――そう思うだけで彼らを見る目も自然と厳しいものになってしまう。
「残念ですけど、僕は兄さんと違ってつい最近まで悪魔のことも、祓魔師のことも知らなかった全くの初心者ですからね。これから一から勉強させてもらいますよ」
僕の言葉に、二人は目を丸くする。
「へええ、そりゃまた珍しいわ。普通この祓魔塾に入る人は一族が代々悪魔祓いを生業にしとるか何かで、子供の頃から悪魔の事を聞かされてるもんやのに。…それじゃ、奥村クンはどうして塾に?」
無神経に訊ねてくる志摩という少年に、僕は歯を噛み締めた。兄さんを守りたいという本心をここで軽々しく曝け出すつもりは毛頭ないし、ましてや神父さんの死のいきさつについて、いまさら思い出したくもない。
僕のそんな気持ちを察したのか、三輪と名乗った坊主頭の少年が志摩の手を引いた。
「いけませんよ志摩さん。ろくに知りもせん人に、そんなこと軽々しく聞きはったら……堪忍な、奥村さん。志摩さんも悪気があって聞いてきた訳やないから、どうか許してやってや」
「いえ、別に気にしてはいませんよ。……お察しの通り、僕が祓魔師を目指す動機は軽々しく口にしたくないし、これから少し兄と話をしなくてはならないので……失礼」
二人に、というよりも三輪君の気遣いに軽く頭を下げると、僕は二人を置いて兄さんのほうに向かった。兄さんはというと、これまた講義が終わった直後から訓練生につかまっている。
「奥村先生は、上一級の騎士なんですよね?なんでそんな上級祓魔師の方が教師に?」
「あぁ、ほら、俺、お前らと同じ年だからさ、教えるのにも、同じ年の方が色々と対応しやすいだろう、って言われてな」
「それもそうですね。それにしても、さっきの気迫、凄かったです。俺…いえ自分も剣道でならそうそう負けない自身はあったんですけど、完全に圧倒されました」
「あはは、それこそ同い年なんだから、そんなにかしこまる必要ないぜ。まあお前らも騎士を目指してるみたいだけど、最初から同レベルじゃ教師の立場がないじゃないか。そうそう簡単に追いつかれるつもりはないから、頑張ってくれよ」
元気良く返事する訓練生を嬉しそうな目で見つめる兄さんを目の当たりにして、僕は、目の前にいるのが本当に兄さんなのだろうかという、恐怖感に似た驚きさえ感じていた。
僕の知っている兄さんは良くも悪くも一人だった。その常人離れした腕力のために教師からさえ敬遠され、学校にも寄り付こうとしなかった兄さんが、こうして同年輩の少年たちに囲まれ笑っている。これが、今まで兄さんや神父さんが僕に隠していた、祓魔師としての兄さんの世界なのだろうか。
少しでも早く、その世界のことを知りたい――僕は真っ直ぐ兄さんのところに向かった。
「ゆ……奥村君?」
「兄さん、さっきの話の続き、良いかな?」
教師としての顔を向けてきた兄さんに、僕はあえて『兄さん』と呼びかけることで、他人に聞かせられない話なのだと暗示した。兄さんもそれを察したらしい。『ごめんな』と周囲に謝ると、僕のほうに向き直った。
「それじゃ、どこか適当なところで話の続きをしようか……来いよ、雪男」
そういうと、兄さんはコートのポケットから何やら幾つも鍵のついた鍵束を取り出すと、ガチャリと音を立てて教室の扉の鍵を回した。
「……それで、何が聞きたいんだ?」
兄さんが鍵を回して扉を開いたとき、そこにはさっきまであったはずの薄暗い廊下ではなく、どこかの建物の屋上らしい広々とした空間が広がっていた。ざわめく訓練生たちに、兄さんは、祓魔師はその資格に応じてこのように行き先を指定できる鍵を必要な数騎士團から支給されることを説明すると、あっけにとられる僕の手を引いてさっさと扉をくぐってしまった。
「うん……まず、兄さんとフェレス卿がどういう関係なのか知りたいな」
さっきの兄さんとフェレス卿のやり取り、あれには明らかに、互いを良く知った者同士の気安さが見て取れた。単なる上司と部下などではない、何か特別な関係があるのではないか……そう考えながら、僕は得体の知れない不安を覚えていた。
「あぁあ〜〜?メフィストォ〜〜?」
だが、兄さんの浮かべた表情は僕の考えた関係を匂わせるようなものではなく、これ以上ないほどのしかめ面だった。
「何を聞いてくるかと思えば……あいつは自称ジジイの親友で、俺が祓魔師の修行のために祓魔塾に通い出してから、ずっとこの学園内での俺の後見人を自認してきたただのピエロだよ。……これ以上ないほどの性悪ピエロだけどな」
兄さんの説明ともいえない説明に、僕は思わず目を丸くする。
「まあそんなわけでかれこれ十年の付き合いになるから、いまさら遠慮もくそもねーけどな。…って言うか、お前、何であいつに頼みごとなんかしたんだ?あいつに何か頼むなんて、悪魔に魂を売るよりもたちが悪いぞ。まああいつが悪魔なのは事実だけど」
「同じことを頼んでいた兄さんには言われたくないね」
「……っ…」
僕の切り返しに、兄さんがぐっと詰まる。フェレス卿が悪魔だという言葉にも興味が惹かれるが、今は兄さんの事情を聞くほうが先だ。
「それじゃあ次だけど、神父さんは兄さんとどういう関係だったの?……祓魔師として」
さっき志摩が言っていた『聖騎士』とは何なのか、もしかしたら、神父さんが僕たち兄弟を引き取ったのも偶然ではなかったのか……
僕の言葉に、兄さんはそれまでとは一転して硬い表情を浮かべると、何かを堪えるようにゆっくりと言葉を絞り出した。
「……多分気付いてるだろうけど、ジジイが俺たちを育ててたのは俺たちを……俺を監視するためだった。あいつは正十字騎士團の頂点に立つ聖騎士で、俺の焔を抑制できる奴がいるとしたらジジイだけだったんだ。……もっとも、騎士團の指令は、青焔魔の焔を受け継ぐ者、つまり俺を速やかに抹殺せよ、っていうものだったそうだけどな」
兄さんの言葉に僕は慄然とした。では、神父さんは、本当は兄さんを殺すはずだったのか……
「でもジジイはその指令に従わなかった。メフィストと共謀して、俺を始末したと騎士團に報告する一方で、身元をごまかした俺たちを修道院で引き取り、育ててくれたんだ。……本人は、青焔魔を倒す武器を育てるためだった、なんて言ってたけどな」
「……神父さんらしいね。何を問い詰められてもすぐに韜晦して、決して本心を明かそうとしない」
僕の声に、兄さんの表情が少し明るくなる。
「ああ……俺はそんなジジイに育ててもらったことに、心から感謝してる。だからこそ、俺はジジイのしたことが無意味だったなんて誰にも言わせねえ。ジジイの遺志は俺が受け継ぐ。俺は聖騎士になって、必ず青焔魔をぶん殴ってやる。……だから、雪男…」
「うん。僕の気持ちも兄さんと同じだよ。神父さんのことを、誰にも悪く言わせたりするものか。兄さんが神父さんの遺志を継ぐんだったら、僕はそんな兄さんを守る。……二人で、神父さんが正しかったと証明しよう」
そう、ずっと、二人で……
僕の力強い宣言に、兄さんも満面の笑みを浮かべた。
「そうだな、二人で、頑張っていこうな!」
「うん、兄さん。……だから、もう一人きりで無理に頑張らなくてもいいからね。兄さんの後ろには、僕がついてる。今はまだ手の届かないぐらい遠いところにいる兄さんだけれど、必ず追いついて見せるから……だから、それまで待っててね」
兄さんは、一人じゃない――僕が、傍で守る――
神父さんから最後に贈られた言葉、それを胸の中でもう一度繰り返す。
神父さん――この孤独で、意地っ張りで、強くて、そして優しい人を、僕はずっと守っていきます。だから、神父さんも見守っていてくださいね――
僕の言葉に、兄さんは顔を赤くしたかと思うと、下を向いてしまった。
「何だよ、弟の癖に。……でも嬉しいぜ」
「兄さん……?」
「さっきは、祓魔師になるな、なんて言ってごめんな。……雪男が、俺と一緒に居たいって言ってくれて、本当はとても嬉しかったんだ」
そう言って、真っ赤になった顔を完全に俯かせてしまった兄さんの姿を目にして、僕は心の命じるままに抱きつくと、そのまま力一杯その全身を抱きしめた。
「なっ…ゆ、雪・男……?」
「……ありがとう、兄さん……」
思わずもがく兄さんを、さらに力を込めて抱き続けると、やがて諦めたのかその身体から力が抜け、そして僕にそっと寄り添ってくる。
僕なんかよりもずっと強い人だけれども
でも、本当は、かわいい、大好きな、兄さん
僕が、兄さんを守るよ