正直に、言おう。
これは、あんまりなんじゃない?
忘れ去られた記念日
「や、ほんとさぁ、どうかと思わない?」
「俺にそれを言われても」
ぽかぽかとした暖かな昼下がり。いつもの団子屋でもっちゃもっちゃと団子を頬張っていると、道の向こうから見たことのある地味な男が来たので、その首根っこを捕まえた。
ちょ、仕事中なんですけど!という言葉は無視だ。とりあえず、俺のこのやり場のない思いを誰かにぶつけなければ。
察しのいいジミー君は、なんやかや言いながらも隣に腰を落ち着けた。俺は団子を食いながら、ぶつぶつとぼやく。
「あのね。俺はね、待ってたんですよ。去年のクリスマス。年を越して、今度はバレンタインもあったよねこの前。それなのにさ、オールスルーだよ?これ、どう思うよジミー君」
「まぁ、年末にかけてから今年は忙しかったですし、きっと頭の中にそれらのことはなかったと思いますよ、副長は」
「だよねー。きっとそうだと思ってたよ。だから邪魔しないようにって連絡もしなかったんだけどさ。なんか、ここまで綺麗にスルーされると俺って何なのかなとかちょっと凹むわけよ。それにさ、クリスマスもバレンタインも、なんで青祓の方の更新はして、なんで銀魂の更新はないわけ?なんで連載とか止まってるわけ?そんなに奥村兄弟が好きですかコノヤロー」
「あの……途中から管理人の悪口言ってますよ旦那」
「いいじゃん。どうせこんなノリ銀魂でしかできないから。管理人もきっと喜んでるよ。俺はこんなに凹んでんのにさ」
「めんどくさ!果てしなくめんどくさいよこの人!」
ぶつぶつと文句を言えば、ジミー君は嫌そうな顔をしながらも、立ち上がらない。こういうとこ、新八に似ているような気がしないでもない。やっぱり地味同士、性格も似ているようだ。
あのドS王子なら途中から放置されるのが常だ。俺もSなのに。
「あーあ。あの子にとって俺って何なのかなー……」
しかし、今回ばかりは凹んだ。
イベントごとなんて、今までそんなに気にしていなかったけれど。でも、恋人が出来た今、期待するなというのが無理な話で。それをことごとく粉々にされたら腹もたつし、泣きなくなる。
いじけていると、ジミー君は、あはは、なんて他人事のように笑ってる。実際他人事だろうけど。
「少なくとも、副長相手にそんなこと期待するのが間違ってますよ」
「かなぁ、やっぱり……」
分かっていた。頭の中では。
アイツにとって真選組が第一で、近藤が一番で、それしか頭にないんだって。それでも、少しくらいは俺のことを思ってくれるスペースがあると、信じていたいのだ。
そうジミーに告げると、いやに感心されてしまった。
「へぇ、旦那って意外に甲斐甲斐しいというか。恋愛に関しては爛れてそうと思っていましたけど、違うんですね」
「そりゃ、相手が相手だもの。本気じゃなきゃ、だれがあんな面倒なやつ……」
「面倒で悪かったな」
へ、と俺のまぬけな声が、その場に響いた。嫌な予感、と思いつつ振り返ると、眉根を寄せて、かなり不機嫌そうな土方がいて。
「あ、ひじか、」
「山崎、テメェ何さぼってやがる。切腹させるぞコラ」
「お、俺は悪くありませんよ!」
俺と目が合うとふいっと視線をそらせて、ジミー君を叱る土方。俺が呼ぼうとしても、それを遮るようにして、一度も俺と目を合わせようとしない。
やばい、何かヤバい。どこがどうヤバいのかって言うと、超ヤバい、みたいな。
だらだらと冷や汗を掻いていると、おい、とドスの利いた声で呼ばれて、バッと顔を上げた。
「ひ、ひじか、」
「今まで面倒なやつの相手をさせて悪かったな」
「ちょ、ひじ、」
「じゃあな」
フン、と鼻を鳴らして踵を返してしまった土方。
俺は呆然とその背中に手を伸ばしたまま、固まってしまった。
だって、あの「じゃあな」は去り際の「じゃあな」じゃなかった。完全に、別れを告げられた時の「じゃあな」だ。
「……、んだよ」
俺は黙ったまま去っていく背中に、少し、ほんの少し、ムカついた。
だって、俺、何も悪いことしてない。クリスマスもバレンタインも、アイツのことを考えてなにも連絡しなかったし、文句も言わなかったのに。なのに、それをちょっと愚痴っただけで、「はいさようなら」?どういうことだよ。
これじゃ、俺は何のために我慢したんだよコノヤロー。
「………あのぉ」
チッと舌打ちしていると、恐る恐るというように隣で声がした。俺は返事をするのも億劫だったものの、しつこく声をかけてくるので、ンだよ、と隣に目を向けた。
「あのさ、空気読んでくんない?だからジミーはいつまで経ってもジミーなんだよ」
「や、意味分かりませんから。っと、そうじゃなくて。旦那、副長を追いかけてあげて下さい」
「なんで俺が。アイツが勝手に去って行ったんだぜ?俺、悪くないし」
「あぁ、もうめんどくさいな!とにかく!早く追いかけてあげて下さいよ!」
「だーから、なんで俺が!」
ぐいぐいと腕を引くジミー君にイラッと来て怒鳴れば、ジミー君も苛立っているような顔をして。
「………副長、ずっと、待ってたんですよ」
ぽつり、とそう零した。
「え?」
「副長はクリスマスの日、休暇を取った隊士たちの代わりをしてて。自分だって何日も前から休暇届出してたのに返上して、仕事してました。でも、その間ずっと、携帯を気にかけては少し落ち込んでいる様子でした」
「………―――」
「気になって、俺、言ってみたんです。副長に。「旦那に連絡しないでいいんですか?」って。そしたら副長は、」
『……―――どうせアイツは、眼鏡たちとクリスマスを祝ってるだろ。それに、行けるかどうかも分からねぇし。途中で水を差すわけにもいかねぇよ』
「そう言って、でも、やっぱり携帯を気にしてました。本当は、旦那が電話をかけてくるのを、待ってたんじゃないかなって思うんです」
「で、でもアイツ、そんなこと一言も……!」
「副長の性格を考えて下さいよ。絶対、旦那には言いませんよ。それに、この前のバレンタインだって、そうです。副長、旦那が来るかもしれねぇからって、机の下にチョコを隠してました。アイツのことだからチョコを集りにくるだろうからって。憎まれ口叩いていても、来てほしかったんだと思います。でも……旦那も副長も、お互いのことを考えて、相手の考えを先読みして、結局すれ違ってしまっています。だから、旦那、早く……」
追いかけてください、とジミー君が言った瞬間に、俺は土方の後を全力で追いかけていた。
それじゃあ、何か?
俺は我慢しないで会いに行けばよかったのか?それを土方は待ってたってこと?
素直になれずに意地を張って。でも、ほんの少しだけ期待して、俺のこと待って。
鳴らない携帯とかちらちら気にして、それをドS王子とかにからかわれて。俺から何の連絡もないことに、凹んで。
ちくしょう。なんだよ、それ。
可愛すぎるだろ、それ!
きゅう、と胸が締め付けられるような息苦しさを覚えた。そして同時に、そんなアイツだからこそ、惚れたんだと、今更ながら実感して。
「―――……土方!」
少し肩を落とした背中が見えてきて、俺は一直線にその背中に飛びついた。
END.