三月九日。15




翌日。俺はあの河原にやって来ていた。
あの日、あの夕暮れ時に、俺と土方は初めて会話を交わした。


『 瞳を閉じれば あなたが
  まぶたのうらにいることで
  どれほど強くなれたでしょう
  あなたにとって私も そうでありたい 』


強く、瞼を閉じる。
今も聞こえる、あのうた。
どこまでも遠くに響く、旋律で。

最初は、気に食わない野郎だと思っていた。
だけど、不意に見せる小さく笑った顔だとか、無邪気に輝く瞳に、どうしようもなく惹かれて。
笑っていて欲しい、強くそう願った。

「土方……俺は……―――」

ぐっと強く手のひらを握り締めて、俺は覚悟を決めた。




「……話っていうのはなんだ、銀時」

ヅラが腕組みをしたまま、俺を見る。他のメンバーもつられて、俺に視線を向ける。
松陽先生の病室。そこに集まったメンバーに、河原で誓ったことを言うつもりでいた。
ぐるり、と皆を一人一人見渡して。


「俺、バンドを抜けようと思う」


そう、言い切った。
ぽかん、と呆気にとられる皆。そりゃそうだろう、デビューだってもう数日後には決まっている。その中でのメンバー脱退は、デビューを先送りにすることは元より、バンドの解散だって予想できる。
そんなの、百も承知だ。……だけど。

「自分勝手だって、分かってる。でも俺は、大切な奴が苦しんでいるのに、それを無視してギターを弾くことはできない」

俺のギターは、大切な人を幸せにするためのもので。
それが何よりも、俺にとっては大事なことだから。
だから。

「土方の声が出るようになるまで、俺はギターを封印する」

それが、俺の出した答えだ。



「……本気か、てめぇ」

高杉は、静かにそう問いかけてきた。俺はそれに、あぁ、と頷く。
すると高杉はその顔を盛大に歪めて、馬鹿だな、と嘲笑した。

「テメェがギターを辞めたところで、土方の声は直んのかよ?……ちげぇだろうが。テメェは自分が苦しくてギターを弾きたくないのを、土方のせいにして逃げようとしてるだけだろーが」
「そ、れは……」
「俺は絶対に反対だ。それに、そんなの土方が望んでるとは思えねぇし」
「……」
「それには俺も賛成だ、銀時」
「ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ。……今まで松陽先生の為にやってきたことを、中途半端に投げ出すわけにはいくまい。俺たちには、時間がないんだ、銀時。土方だって、お前がギターを辞めること望んではいないだろう。……それとも、土方のためにギターを辞めるお前を喜ぶような、そんな奴に惚れたのか、お前は」
「……」

高杉、ヅラ、と反対を受けて、俺は反対されるだろうと思っていたものの、その内容が考えていたものと違っていて、戸惑った。
土方は、高杉やヅラの言うとおり、俺がギターを辞めたと聞いたら、きっと悲しむだろう。いや、もしかしたら、怒るかもしれない。

俺は泣き出しそうな顔で怒る土方の顔を脳裏に思い浮かべる。あぁ、間単に予想ができるということは、つまりそれは正しいということで。
……先生、俺は、どうすればいい?

ちらり、とベッドの上に眠っている先生を見る。先生は、何も答えない。

高杉の言うとおり、俺はただ、自分が苦しいからギターを辞めようとしている。けれど、仕方ないんだ、大切な人を傷つけて、大切なモノを奪って、それでもなお、ギターを弾くことなんて、俺にはできない。
……どうしよう。どうすれば、いい?

俺がぐるぐると思い悩んでいると、ガラ、と病室の扉が開いた。誰だ?と扉のほうを見て、絶句する。 
そこに、立っていたのは……―――。

「ひじ、かた……?」

ゴリラに支えられながら、少し苦しげな顔をした、土方だった。


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