MIRACLE Boy 前





九月の初旬。この時期にはどこも決まってあるイベントが開催される。それは、体育祭だ。
それはこの正十字学園も例に漏れず、また、文化祭と体育祭が年毎に交互にあるわけでもなく、きちんとどちらも開催される。お祭り好きの理事長の意向であり、また、生徒たちも楽しみにしている。それを苦笑交じりに見守る教師たちもどことなく浮き足だっており、意外と彼らの中でも自分たちの受け持つ組が勝つのだと闘志を燃やし、対決し合っている節がある。
そしてそれは、祓魔塾の生徒たちも同じで。

「そういえば、もうすぐ体育祭だってね。燐は何組さんなの?」
「俺?俺は青だな。他は赤と黄色だったっけ。なんか信号みてーだな」
「あはは、そうだね。えっと、他の皆はどうなのかな?」
「よくぞ聞いてくれました!」

そこで登場したのは、志摩。キラキラと目を輝かせて、俺は燃える情熱の赤や!と高らかなに宣言していた。

「志摩君は赤組さんなんだ?じゃあ、勝呂君も三輪君も?」
「あぁ、そうや。俺たち三人は偶然にも同じ赤組や」
「え、そうなの?それじゃ俺たちは敵同士だな!」
「そうや、奥村君。例え同じ塾生と言えど、勝負は勝負や!」

覚悟しいや!と闘志を燃やす志摩に、おう、望むところだぜ!と同じように闘志を燃やす燐。それを楽しげに見守るしえみと、呆れ顔の他の塾生たち。
しかし、その中で一人、浮かない顔の男がいる。それは他の誰でもない、燐の双子の弟、奥村雪男である。

「……雪ちゃん?」

浮かない顔をする雪男にいち早く気づいたしえみが、伺うようにその名を呼ぶ。すると他の面々も気づいたのか、顔色の悪い雪男の様子を伺う。雪男はそんな視線たちに臆することもなく、どこか呆然としていて。

「雪男?」

双子の弟の様子がおかしいことに心配げな声で呼びかけると、雪男はぎこちなく燐を見て笑うと、一言。

「……兄さん、僕は……」

黄組、だよ、と呟いた。
そしてそれを受けた燐の反応は。

「そうなのか!じゃあ、俺と雪男も敵同士だな!」
「!」

そう言って、にっと無邪気に笑うから。
びしり、とその場の空気が固まった。

……言っちゃったよ、コイツ。

その時、塾生の心は一致した。彼らは恐る恐る言われた雪男の方を見て、更に絶句する。
雪男は、この世の終わりのような顔をしていた。どうやら、それほど兄と同じ組じゃなかったことに衝撃を受けたらしい。いつも冷静沈着な彼にしては珍しい表情だが、塾生たちはこと兄に対しては色々と制御が聞かない弟のことを知っていたので、その表情を見て何となく合掌をした。
そんな周りのことなど露知らず。当事者である燐は無邪気に、体育祭かぁ、と近づきつつあるそのイベントに思いを馳せていた。



その日の夜。
未だに衝撃から立ち直っていないらしい雪男が、燐よりも少し遅めに帰宅した。疲れている様子の弟に兄は首を傾げつつも、仕事が大変なんだな、と見当違いの心配をしていた。
それから食事も済ませて、風呂にも入り。ゆったりとベッドに腰を下ろして漫画を読んでいた燐は、いつの間にか目の前に来ていた弟を見上げた。

「雪男?」
「……兄さん」

どんより、と暗雲を背追う雪男は、燐を呼ぶとがばりと抱きついてきた。体も大きくなった雪男に抱きつかれた燐はその勢いを抑えきれず、ぼすり、とベットに倒れ込んだ。
燐は少し驚いたものの、珍しく甘えた様子を見せる弟に小さく笑って、そっとその頭を撫でた。

「雪男。どうした……?」
「……」
「ん?」

兄さん、と言ったきり黙ったままの雪男に、燐は優しく語り掛ける。するともぞもぞと燐の上で動いた雪男は、ぎゅう、と燐の体を強く抱きしめてきて。

「兄さん、僕は」
「うん」
「たとえ体育祭で兄さんと敵対する組だったとしても」
「うん」
「……僕は兄さんの、味方だからね」
「……、それじゃあ、同じ組のヤツが怒るんじゃねーの?」

燐が苦笑すれば、雪男は構わないよ、とさらに強く抱きしめて。ばーか、と笑いながらも、どこか嬉しそうに燐は雪男の暖かな体温を感じていた。




そんなことがありつつも迎えた、体育祭当日。

『それでは皆さん!今日はどの組も正々堂々と戦ってくださいね☆』

理事長であるメフィストは、ピンクのジャージという相変わらず趣味を疑う服装で挨拶をすると、優雅に一礼をした。それを合図に、各競技が激しい火蓋を切って落とされる。
燐は青い鉢巻をきゅっと額に巻こうとして、しかし上手く行かずに苦戦していた。

「あ、あれ?上手く結べねぇ……」

どうしよう、と鉢巻片手に呆然としていると、背後から伸びた手が鉢巻を浚って。

「ほら、結んであげるから」
「雪男!」

後ろ向いて兄さん、と黄色の鉢巻をした雪男がにっこりと笑った。明らかに青い鉢巻をした集団の中に混じる黄色の鉢巻に、誰もが闘志を燃やして見つめている。そしてそれが新入生代表挨拶をこなし、誰からも期待されるエースとなれば更に敵対するというもので。
メラメラと燃え盛る炎の中、雪男は平然と微笑んで、兄の鉢巻を巻いてあげている。

「ほら、できたよ。兄さん」
「おう、ありがとな、雪男」

きゅ、と何故かリボン結びにされた鉢巻を見て、雪男は満足そうに笑う。自分がどんな巻かれ方をしたのか分からない燐は、無邪気に弟に向かって笑いかけていて。
おいお前ら、とその光景を見ていた全員が内心でツッコミを入れていた。だが、それを声に出すのは何となく危険だと察知していたので、誰もそのことを言わなかった。

赤、青、黄色、と組ごとに並べられたテントの中でその様子を見ていてた京都三人組や神木たちも、またか……とどこか諦めモードで奥村兄弟を見守っていた。


そして、第一の競技が始まる。
最初は綱引きだ。三つの組の勝ち抜き戦で行われるこの競技は、組全員の参加だ。最初が黄色と赤、その後に赤と青。そしてその二つに勝った組同士が決勝戦を行うというものだ。
しかし、組全員参加の競技となれば、もちろん燐も雪男も参加するわけで。しかしこの組み合わせだと勝ち残らない限り雪男と燐が対決することはない。そこを逆手に取った雪男は、最初の赤組との対決を盛大にサボった。まぁ、たった一人サボったところで勝敗に左右するわけではないが、幸か不幸か、黄色は初回で負けてしまった。
残念がる黄色鉢巻の中で一人、したり顔で笑う雪男は浮いていたとかいなかったとか。
そして次の赤と青の対決では、当然ながら青が勝った。何故なら人間離れした力を持つ燐が、一番後ろで踏ん張っていたからだ。そのせいで、青が引っ張られることはなく、結局綱引きは青の勝利となる。

「いてて……」
「どうしたの!?兄さん」

退場すると、燐が両手を見下ろして少し顔をしかめていた。それを目敏く見つけた雪男が駈け寄る。すると燐の手は綱を握り締めていたせいで少し赤くなっていて、雪男は眉根を寄せる。
内心で来年からは綱引きはナシにしてもらおう、と画策しつつ、見せて、と燐の手を取る。

「こんなの、唾付けとけば直るって!」
「……、そうだね」

大丈夫!と笑う燐に雪男は頷いて、握った燐の手のひらに唇を寄せる。ちゅ、と軽い音を立てて赤く腫れたその場所に唇を落とすと、顔を上げた。

「はい、これで大丈夫でしょ?」
「あぁ、ありがとな!」

そう言って無邪気に笑う燐。それに、どういたしまして、と返す雪男。
それを見守っていた他の生徒は、オイオイそれでいいの?と呆然としていたものの、何も見ていないフリをした。一部の女子は軽い悲鳴を上げてどこから取り出したのか、携帯のシャッターを切っていた。

「……波乱になりそうやな」
「……えぇ」

京都三人組はそんな生徒たちを見つつ、これからの体育祭のことを思った。


それから、他の競技も順調に進んだ。
100メートル走では偶然にも同じ走る組になってしまった燐と勝呂が接戦を繰り広げ、数秒の差で燐が勝利した。
そして長距離走では持久力のある雪男が一位でゴールし、女子の悲鳴を一身に浴びて男子から羨望の眼差しを受けていた。
そんな雪男を見つめて、燐はどことなく嬉しそうだ。その様子に気づいた先輩の女子が、燐の隣に来て。

「奥村君、嬉しそうだね」
「え?あぁ、まぁな。アイツ、昔は体が弱くて運動なんて全然出来なかったから、あんな風に走って一番になるなんて、あの頃には思いもよらなかったからな」
「ふふ、やっぱり双子のお兄さんだね、奥村君」
「へ?や、そうかな?」

ほんの少し照れくさそうな燐に、照れてる?と茶化す女子。照れてねーよ!と突っぱねる燐だが、明らかに顔が赤くなっていて。そんな反応を見た女子は、奥村君可愛い!と目を輝かせて、不意に何かに気づいたように燐の頭から足までをじろじろと見た。その視線に燐がたじろいていると、女の子はがしっと燐の手を握り締めて。

「奥村君、お願いがあるの!」
「へ?」

まさしく、キラキラという擬音が付きそうな瞳で、燐を見上げた。



「あれ?兄さん?」

長距離走が終わり、トラックから帰ってきた雪男は、燐がテントにいないことに気づいた。どうかしたのだろうか、と周囲を見渡していると、ぽんぽん、と肩を叩かれた。誰だ、と思いつつ振り替えると、同じ黄色組の先輩がこちらを見て、よぉ、と軽く挨拶をする。それに軽く会釈して挨拶を返すと、あのさ、と少し言い難そうに先輩は切り出して。

「ちょっと、頼みたいことがあるんだけどさ」
「?」


『さぁ、お次は皆さんお楽しみ!仮装DE借り物競争リレーin体育祭です。各組が二人一組で仮装していただいて、仮装した状態で借り物競争リレーに挑んで頂きます!なお、この借り物競争には順位だけでなく仮装のテーマや出来具合も審査の対象になります!それでは、仮装した生徒たちの登場です!』

気合の入ったアナウンスがトラック中に木霊する。それを皮切りにワアア!と歓声を上げる生徒たち。どうやらこの競技は毎年恒例であり、盛り上がりを見せる競技らしい。
しかし、そんなことはどうでも良くて。雪男は自分の今の格好を見下ろして、少し困惑気味の表情をした。
今雪男がいるのは、その仮装のために作られた部屋らしく、他にも着ぐるみやピエロの格好をした人たちで溢れていた。何となく、自分もこの競技に参加させられそうになっているな、と察しつつも、満足げにこちらを見る先輩たちに、これは?と説明を要求する。すると先輩は困ったように眉根を寄せて。

「実は、当初これを着る予定だったヤツが前の競技で足を挫いてな。代わりのヤツを探してたんだ。そしたらお前が丁度背格好も同じだし、衣装も似合っている。そして何より、足が速い。そんな逸材、お前しかいないんだよ奥村!」
「はぁ……」

頼む!と頭を下げられて、雪男は少し考えたものの、別にいいか、と思った。先輩に頼まれて断るなんて失礼だし、別に可笑しな格好をさせられたわけではないし。
雪男が頷くと、先輩はありがとう!と盛大に感謝していた。そして、これで我が黄色組の勝利は確実だ!と吼えた。そしてそれに賛同する他の先輩たち。
そんな彼らをスルーして、雪男はそれにしても、と思う。こんな格好をした自分の姿を、あの兄はどう思うだろう?多分、ホクロ眼鏡の癖に、と拗ねながらも、似合ってた、と褒めてくれるかもしれない。
雪男は、自分の格好を鏡で見つめながら、クスリ、と笑った。

同時刻。また別の部屋で、女子の黄色い悲鳴が上がっていた。そして、その真ん中で絶句する燐の姿。

「おおおお、奥村君!ナイス!すっごく似合ってる!ナイス過ぎるよ!ちょ、写メいいかな!?」
「ずるい!アタシも!」

先輩女子たちに囲まれながら、携帯のフラッシュを浴びる。だが、絶句したまま固まっている燐は、それに気づかない。そしてそんな様子を見ていた先程の先輩女子が少し興奮しつつも、ごめんね、と悪びれる様子もなく謝ってきて。

「コレを着る予定だった子が、絶対イヤ!って言って体育祭休んじゃって。どうしようかと思ってたけど、奥村君サイズもピッタリというか、ちょっと余っちゃったけど、全然大丈夫そうだし。それに、足も速いでしょ?だから、是非お願いしたくて」

お願い!青組の勝利が懸かっているの!と言われて、ようやく燐は我に返る。そしてお願い!と迫ってくる先輩女子たちに、少したじたじになりつつも、自分の格好を見下ろす。
確かに、コレを着る予定だった子はイヤだっただろう。体育祭を休みたくもなるのも、頷ける。しかし休んだおかげでこうして燐にお鉢が回ってきたのだから、正直に言えば何故休んだ!と講義したいくらいだ。
だが、組の勝利が懸かっていると言われたら、断れない。燐だって、どうせ参加するなら優勝したいのだ。

「……これ着たら、勝てるんだよ、な?」
「「「「勿論!絶対勝てる!」」」」

と何故か自信満々に言われて、ほんとかなぁ?と思いつつも、頷いた。


そして、仮装DE借り物競争の幕が切って落とされる。走者となる組が順々にトラックに集まる中、ある組が現れると、きゃああああ!という女子の甲高い悲鳴が木霊した。
その組とは、雪男と二年先輩の組である。
先輩の方は小柄な男子生徒で、雪男の肩にもないくらいの身長で、恐らく男子の中では一番小さな人だろう。そしてその先輩は黒のシルクハットを被り、首元にフリルの付いた白のシャツに黒のリボン。黒のベストに銀のボタンが光り、ハーフパンツやブーツも黒という出で立ちだ。さらに何故か左目には眼帯がしており、少し距離感がつかめていない様子だ。
そして、そんな先輩を支えるように、雪男が立っていた。雪男は白のシャツに黒のネクタイ、黒の燕尾服に黒の靴という、飾り気のない服装だ。だが、それゆえにすらりとした長身の雪男には似合っていて、また、物腰の柔らかさやさりげなく先輩を支えている様子が、まさに執事というに相応しい姿をしていた。
テーマは『某主人と執事』と先輩たちは言っていたが、何のことなのか雪男は知らなかった。
雪男は周りの歓声よりも、眼帯をしているせいで足元がおぼつかない先輩の心配をしていた。一度大丈夫ですか、と声を掛けたものの、大丈夫だよ、と返されている為、これ以上は何も言えない。こんなので大丈夫なのか、と思いつつ列に並んでいると、それまで組が登場するたびに上がっていた歓声がぴたりと止んだ。もう全て入場したのかと周囲を見渡して、皆がある一点の注目していることに気づき、そちらに目線を向けた。
そして、絶句。

皆が集まる視線の先に、一組の男女・・がいた。

女子の方はメフィストのように奇抜な形をした帽子を被り、奇妙な柄のネクタイに赤のシャツ、黒のスーツはところどころ可笑しな柄が入っており、全体的に可笑しな雰囲気を醸し出していた。
だが、雪男が真っ直ぐに見詰めていたのは、その女子のほうではなく、男の方だった。
水色のドレスに真っ白なフリルの付いた腰エプロン、そこからのぞく白い足は細く、どこかおぼつかない様子で歩く姿は、加護欲をそそる。青みがかかった黒の髪には白のカチューシャをした姿をしたその男は、真っ赤に照れながらトラックの中に入ってきた。その男にこそ、雪男は嫌と言うほど見覚えがあって。

「にい、さん……?」

そう、その男こそ、雪男の双子の兄、奥村燐だったのだ。
そのことを理解した瞬間、わあああ!とそれまでにないほどの歓声が湧いた。きゃああ!という女子の悲鳴は勿論、何故か男子までもがうおおおお!と雄叫びを上げていた。そしてそれに我に返って、しまった、と思う。兄のあんな姿、他の誰にも見せたくない。だが、今は競技中だ。正直勝ち負けには興味はないが、相方である先輩の手前、兄の方へ行くことなどできず。
可愛い!という声と共に輝く携帯のフラッシュに、雪男は内心で歯軋りをした。
あの二人の格好からして、恐らくテーマは『不思議の国のアリス』だろうか。そして女子が帽子屋、燐がアリスだろう。性別逆転しているのは、受け狙いなのかそれとも女子の陰謀だろうか。

そして当の燐はと言えば。

「先輩、皆先輩のこと見て可愛いって言ってるみたいだな!やっぱりそんな格好してても可愛い人は可愛いんだな!」
「……え?」

見当違いの勘違いをしていた。


波乱の仮装DE借り物競争in体育祭はこうして幕を開けた。
次々と前の組が借り物をしていく中、とうとう雪男たちにバトンが回ってきた。小柄であり片目の先輩をフォローしつつ、雪男は借りてくるものの名が書いてある紙を入れた箱に手を入れる。一番最初に手に触れた紙を掴み、引き抜く。
そして、その紙に書いてあったモノは。

『 坊主の人 』

次の瞬間、雪男が赤組のテントにいる子猫丸の下まで走ったのは、言うまでもない。
そして左に子猫丸、右に先輩を抱え、次の人へとバトンを渡す。さすがに人を二人も抱えて走った雪男は、荒い息を吐いていたものの、視界の端に燐たちの組がバトンを渡されているのを見て、ハッと顔を上げた。燐は先輩と手を繋いで走っていたものの、ドレスに慣れていないせいか、少し走りにくそうだ。あれでは転んでしまいそうだ、と雪男がハラハラしていると、燐たちは箱の中から紙を取り出していた。そして二人で紙を覗き込んだ、次の瞬間。

「ゆきおおおおおおおお!」

と叫びながらこちらに向かって走ってきた。ちょ、兄さん、今スカート着てるんだから慎重に走って!とその姿にぎょっとしていると、雪男の傍に来た燐が雪男に手を差し出して、一言。

「眼鏡、貸せ!」

と、そう叫んだ。どうやら燐の借り物は『眼鏡』だったらしい。雪男は若干燐の様子にたじたじだったものの、眼鏡を貸そうとして。

「待って兄さん。僕、眼鏡がないと何も見えないんだ。だから、僕も一緒に行くよ」
「へ?あ、あぁ。分かった!」

にっこりと微笑んで、雪男は燐の差し出していた手を取る。燐は雪男の手を握り締めて、走るぞ!と再びスカートに悪戦苦闘しつつも走り出して。ぐいぐいと引っ張る燐に、転ぶよ、と注意しようとすると、案の定、燐は自分で自分のスカートを踏んでしまい、グラリ、と体勢を崩した。

「う、わ!?」
「兄さん!」

燐が地面に衝突する寸前、雪男は咄嗟に握っていた燐の手を引き寄せた。すると燐は雪男の胸に飛び込んできて、転ぶのを防ぐことができた。ほんの少し汗の匂いがする燐の体を少し抱きしめて、雪男はホッと息をつく。燐も転ぶと思っていたのか、ドキドキと高鳴る心臓が聞こえてきて。

「大丈夫?兄さん」
「え、うん……。ごめん」

燐を見下ろして雪男が問いかけると、燐が少しバツの悪そうな顔をした。それに苦笑しつつ、さ、行くよ、と手を差し出す。燐はおう!と元気よく返事を返して、その手を握り返す。そして女子先輩に一言謝ると、三人で次の人にバトンを渡した。

「や、役得だわ、コレ……!」

間近でその様子を見ていた帽子屋の先輩は興奮しつつ、そう呟いた。後に、この時の執事雪男とアリス燐のベストショットが正十字学園内の裏で売られることになるのだが、それはまた、後の話。









ちなみに、雪ちゃんは「黒○事」のセ○スチャンの格好をして頂きました。相方さんはもちろん主人であるシ○ルです(笑