余命、一週間。1

「あと一週間の命、だと?」

平和な昼下がり。俺は仕事もなくふらふらと町中をうろついていた。
すると、角を曲がった途端に聞こえてきた物騒な声に、俺はつい足を止めた。
聞いたことのあるような声だ、と思ったら、チンピラ警察の局長を務めるゴリラと、ドS王子の沖田君が、二人して真剣な顔を付き合わせていた。
俺はやけに真面目な顔をしている二人に、声をかけるかどうか迷った。二人は俺に気づかないくらい、真面目な話をしているようだ。

「それは……トシに話したのか……?」
「いいえ。あの人はまだ。……まずは、アンタに言っておいたほうが言いと思いやして」
「そうか……」

ゴリラは、哀しげに瞳を伏せた。心なしか、沖田君の肩も下がっているように見える。
俺は、そんな二人の表情を見て、ドキリ、とする。

……あと、一週間の命、って……。

トシ、というのは、チンピラ警察の中でも特にチンピラのような、瞳孔の開いた男のことで。俺はその男とは犬猿の仲にある。
その男の名が、ここで呼ばれるということは、つまり……。

アイツの命が、あと、一週間、ってこと、か?

俺は、何の冗談だ、と思った。どうして、とも。
だが、この二人の表情が、それを決定付けていて。

「……あ、旦那じゃねぇですかぃ」

俺が呆然としていると、沖田君が俺に気づいたのか、いつもと同じ調子で声を掛けてきた。だが、心なしか、こちらを探るような目を向けてくる。今の話を聞いたのか、と。
俺は少し立ち聞きしてしまったことに気まずさを覚えつつ、あのさぁと切り出す。

「さっきの話、なんだけど。ホントなのか?あと、一週間の命、っていうの」
「……」

俺がそう聞くと、ゴリラと沖田君が表情を曇らせた。何も言わなかったが、その表情だけで十分だった。

「そう、か……」

俺は、なんて言葉を返せばいいのか、分からなかった。だが、沖田君が勤めて明るい口調で。

「あの野郎がこの話を聞いてヘタレちまうのも面倒なんで、内緒にしておこうと思ったんですが……。旦那ァ、この話は、極秘ってことにしておいてくれやせんかねぇ?」
「……誰が好き好んでこんな話するかよ」
「すまんな、万事屋……」

項垂れるゴリラに、よしてくれ、と思う。
お前が頭を下げる必要などないだろう、と。勝手に俺が話を聞いてしまっただけなのだ。
それをどうこうする権利なんて、俺にはない。

アイツとは、腐れ縁。それ以上でもない。ただ、それ以下でもないことは確かで。
知らないどっかの野郎だったら、良かったのに。なんで、アイツなんだ。

俺は瞳孔開いた真っ直ぐな瞳を思い出して、苦々しく舌打ちをした。



そんなことがあってから、俺は町に出るたびに、黒い制服を探した。
何故かは分からないが、つい、目で探してしまう。
だが、こんな時に限って、会うことはなくて。

もやもやとした想いを抱えたまま、二日が過ぎようとしていた。




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