流れていったのは、空の涙だけじゃなかった。Side:ミツバ

最後に見たあのひとは、凛とした姿で立っていた。
長かった髪を切って、別人のような洋服に身を包んで。
でも、一目であのひとだと分かった。

目が、あの頃と少しも変わらなかったから。

不器用で、優しくて、とてもとても、つよいひと。

あのひとがどんな想いで、私を拒絶したのか知っていた。
あのひとがどれほどの覚悟で、私を置いて行ったのか知っていた。

もう二度と、私の前には現れないと、去った時の背中が語っていた。

それでも……―――それでも良かった。
ただ、あのひとが強く在れるように、願った。それを邪魔することなんてできないから。

子供だった、あの頃。
少しだけ結んだ指先だけが、想い出で。
その温度だけが、ずっと忘れられなかった。

私が願ったように、あのひとは今も強く在って。
ただ、ただ、前だけを見て立っている。
それを、その姿を、少しでも見れただけでも、良かったと思えた。

しあわせだと、思えた。

ねぇ、十四郎さん。
これからも、総ちゃんのことをお願いね。
私はしあわせだったから。今度は、今度こそは、貴方がしあわせになって欲しい。
これは私のエゴだけど、でも、そう願っているの。

……―――、だから、泣かないで下さい。十四郎さん。


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