屯所の前まで土方を送ると、少し目元を赤くした土方が申し訳なさそうに眉を下げていた。どう俺に言おうか迷っているような様子に、俺は小さく笑う。
全く、どこまでも意地っ張りな奴だよ、お前は。
「今日のことは、誰にも言わねぇよ」
「万事、」
「だから、明日からまた頑張れよ、副長さん」
「……―――」
そう言ってくしゃりと頭を撫でると、いつもだったら振り払う手を、土方は振り払わなかった。
俯いて、その表情は分からなかったけれど、多分、ぐっと唇を噛んで溢れ出しそうな感情を押し殺しているのだろう。
似た者同士だと言われる俺たちだ。土方の様子なんて、手に取るように分かった。
俺は、頭を撫でていた手を、そっと土方の頬に滑らせて。
ほんの少しだけ潤んだ、薄墨色の瞳に俺が映っているのを見て。
俺は、湧き上がる想いのまま、唇を開いた。
「……土方」
ごめん。
「好きだよ、土方」
ごめん。弱虫な俺を許してくれ。
ごめん。臆病な俺を許してくれ。
もうすぐいなくなってしまうお前に、この気持ちを告げられずには、いられないんだ……―――。
「な、に……」
俺の言葉に戸惑った土方は、一歩後ろへ下がろうとした。だが、俺はそれを許さずに。
「好きだ。好きなんだよ。お前のことが」
「……ッ、じょ、冗談……だろ」
「冗談で男に告白なんてできるかよ」
なぁ、土方。と、囁くように告げると、土方はぐっと言葉を飲んだ。どうやら、俺が本気だと、気づいたみたいだ。
そして、俺の手が触れている頬が、徐々に熱を帯びて。
「……、お、れは……」
真っ赤になった土方の顔に、俺が呆然としていると、土方は震えるその唇で。
「俺は……、っ、おれ、も……」
その先を言う前に、俺は土方の頬を引き寄せて、唇を塞いでいた。
「……んッ」
すきだ、と。
その言葉を聞かなくても、俺には十分に伝わったから。
「……は、……ふ」
噛み付くようなキスに、必死に答える土方が可愛い。俺はしばらくの間、夢中になって土方と唇を交わしていた。
「……は、」
「土方、好きだよ」
散々唇を寄せて、満足した俺はぐったりとしている土方を抱きしめて、そう耳元で囁いた。キスだけでこんなになるなんて、予想外に初心すぎる土方に俺は何となく嬉しくなる。
「……」
だけど。
こんな風に想いを交わしても、それも後、少しの間だけ。
俺はそれに、ツキリと胸を痛めた。
それでも、今、この瞬間は幸せだから。
俺は、ぎゅっと土方を抱く腕に力を込めて、この温度を覚えていようと想った。
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