余命、一週間。6

「……」

勢いに任せて告白して、それを受け入れてもらえて。
すごく嬉しいはずなのに、この切なさは何だろう?
俺はゆっくりと土方の身体を離しながら、小さく唇を噛んだ。
切なくて、苦しい。

「……、万事屋」

ごめん、と。瞳がそう語っている。それは何に対して謝っているの、なんて聞くことすらできない。
彼自身の口から決定的な言葉を聞くことが、嫌だから。

「もう、俺、戻らねぇと」

こちらを伺うようにして、そう言われて。俺は、そうだね、と返した。本当はもう少し一緒にいたい、とそう思ったけれど。土方を困らせたくはないから、ぐっと我慢する。

「……じゃあ」

戻る、から。と少し俺を気にしたように見た後、土方は俺に背を向けた。俺はその背中を見送りながら、もう終わりなのだろうか、と思う。
何時死ぬか分からないのは、お互い様。それが土方は後数日だと分かっているだけの話だ。
もしかしたら、俺の方が明日死ぬのかもしれないし、このまま俺を置いて土方がいなくなってしまうのかもしれない。
分かってる。頭では理解しているんだ。……―――でも。
このままは、嫌だ、と強く思うから。

「土方!」

俺は背を向けている土方を、そのまま後ろから抱きしめた。

「万事屋ッ!?」

ひどく驚いたような土方を無視して、ぎゅっと腕に力を込める。

臆病者で、ごめん。
卑怯者で、ごめん。
でも、このまま失うのは怖すぎて。

「銀時、だよ。土方」

つよく、つよく抱きしめて。土方の肩に額を押し付けながら、そう囁く。

「銀時って、呼んで。……今だけでいいから」

お願い、と祈るような声で、土方に告げる。すると、土方は強張らせていた肩の力を抜いて。

「……、呼んでも、いい、のか……?」

そう、呟くから。
俺は胸が潰れそうなくらい、痛んで。
いいよ、と掠れる声で答えた。土方はその答えに小さな声で。

「……ぎんとき」

俺を、呼んだ。
小さな、こんな風に近くにいないかぎり聞こえないような、小さな声で。
俺はそれを確実に聞きながら、うん、と一つ、返事を返した。

俺を呼ぶ君の声を、俺は必死に拾い上げて、絶対に離さないと誓った。





そんなことがあって、別れ難いと思いながらも土方と別れて。
フラフラと万事屋に帰ったものの、俺はその辺りの記憶が曖昧だ。気がつけば俺は万事屋のソファーに寝転がっていて、ぼんやりと目覚めた俺を神楽が怪訝そうに覗き込んでいた。

「銀ちゃん、どうしたネ。いつもより目が死んでるヨ」
「あー、まぁ、うん。色々あんだよ、大人には」
「ふぅん?」

ヘンなの、と言いつつも、深く詮索はしてこない神楽。こんな子供にまで気を使わせて、少々気まずい思いをしつつ、クシャクシャと頭をかいた。

「銀ちゃん、何か気になることがあるなら、当たって砕け散るといいヨ」
「や、砕け散ったらダメだからね」
「大丈夫ヨ。砕け散ったら、破片を拾えばイイネ」
「……」

それは応援しているのか、それとも玉砕しろって言っているのか。
俺は曖昧に笑いながら、今、土方は何をしているだろう、と思う。
もう、時間はあまり残されていない。今日かもしれないし、明日かもしれない。
昨日は元気だったけれど、そんなものは当てにはならないのだ。
できればそんな日は来なくていいのに、と思うのだけれど、実際、現実はそんなに甘くなくて。

俺の思いを断ち切るように、万事屋の電話が鳴り響いた。








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